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やりたいことが分からない読書録5『14歳』千原ジュニア

 中学生のころ部屋で引きこもっていた千原ジュニアが、兄のせいじに吉本のNCSに連れられ、お笑いに出会い、これが自分の生きる道だ、となるまでを書いた本。
確か一番初めに読んだのは僕もちょうどそれぐらいの年齢の時だったと思う。お笑いや芸人が好きだったので、千原ジュニアが本を出してたことを知り読んでみた。でも当時はふーんというぐらいでそこまで何か印象的だっというわけではない。

 もう一度読み返してみたのは、厳密にはやりたいことが分からないとか人生どうしようという段階は過ぎて、すでにこの方向で突っ走っていこうと動き出していた時。
ここに書かれてるのは、なんか違うっていう自分の中のもやもやをうまく言語化出来なくて壁に八つ当たりして壊したり、という描写があって、たぶん昔の自分と同じ状況なのだという気がした。何がやりたいとかどうしたいとかわからないが、でも今がなんとなく違うことは感じていて、でもどうすればいいか分からない。
僕の場合はその時大学生だったので、分からないなりに自分で考えたり調べたりして、じゃあ本を読んでみようとか、これを試してみようと、動くことができたが、まだ中学生でそれに比べるとまだ精神的にも成熟してない段階だと、内側で爆発しそうなものをそういう形でしか掃き出せないのだと思う。

 だから僕が大学生の時に考えていたことを14歳の時点ですでに通過していて、あと印象的なフレーズとして、正確には覚えてないんですが、「自分の戦うリングを見つけた」っていう場面があるんですね。ずっともやもやしてたけど、最後の最後で、せいじに連れられて吉本に行って、そこで自分がやりたかったのはお笑いだったんだと気づく瞬間で、だから千原ジュニアにとってはお笑いをやることが生きることみたいな感覚だと思う。
だから昔よく見たのは、後輩が、ジュニアさんは飲みの場でもずっと大喜利しようとするからしんどい、と話してて、そこでは普通の面白いトークで終わってましたが、ちゃんと考えてみると、お笑いが自分軸みたいな状態ですよね。自分の人生とお笑い芸人という日常が一致している状態。

 芸人と言ってもバックボーンはいろいろあって、M-1で優勝したら芸人やめるって言ってる人もいれば、コメディとか喜劇が原体験という人もいれば、コントがやりたいとか、芸能人になりたいとか、いろんな抽象的な方向があって、そこから降りてきた具体的な職業としてお笑い芸人が選ばれているわけで、そうなると全員が四六時中お笑いをやっていたい、ということにはならない。
でも千原ジュニアの場合は酒を飲んでても大喜利をやるという日常が、そうあろうとする人生の中に含まれているのだと思う。エネルギーの源泉がその周辺にあるという感じ。
だからこの本は、「自分の人生と日々の生活が分離している人がお笑いというエネルギーの源泉を見つけて全体がうまく統合されるまでの物語」として読むと多分すごく面白い。ちょうど自分もそんなとき、というタイミングであるほど猛烈に共感できるのかもしれません。


14歳 (幻冬舎よしもと文庫 7-1)

やりたいことが分からない読書録4『大人はもっと遊びなさい 仕事と人生を変えるオフタイムの過ごし方』成毛眞