20年無敗の伝説の雀士と呼ばれる桜井章一が流れについて喋ってる一冊。流れの正体というか解像度が上がる感じがあります。
簡単に言えば頭で考えすぎず知識を詰め込み過ぎず、その空間のリズムや空気に注意しろってことなんですが、当時は大学生になったばかりで毎週せっせと実験レポートをやっていました。
で、なんか面白くないなということでいろいろ考えた結果、「真面目過ぎた」という結論になりました。それは『戦略的不真面目の実践』という電子書籍にも書いたのですが、じゃあ真面目ではないとか、不真面目ってどういうことか、とよく考えていたんですね。
ちょうどそんなときに桜井章一という人を知って、この人の言う「流れ」とか「感覚」というのが僕が思う不真面目に近いものなのだと思いました。
流れに乗るというのは、雑に言えば頑張らないということです。進みたい方向と逆に流れてるときに必死でバタバタしてもそっちには行けないわけなので、そのときにはおとなしく流されるわけです。むしろ頑張るべきは、行きたい方向への流れを見つけてそこまでたどり着くことです。
じゃあその時の流れとは何ですか、というのがここで議論されてることだと解釈しました。
例えば、4人のマージャンで場が膠着してきたら、自分が負けてもいいから一旦周りの誰かを上がらせるって話がありました。これは実際どうなのか分かりませんし、僕は麻雀もよく分かってませんが、でも言いたいことはめっちゃわかるんですね。
つまり、今自分が最初に利益をとることではなくて、もう一つ広く、「場」で見て、そこがプラスになるような動きをしていくってことです。だから個人の損得ではなくて、その空間が活性化する方向に動くわけですね。
で、これはいろんな言い方ができて、一つは澱んだ場に小さな循環を起こすということ、もう一つは流れがよくないときはおとなしく受け入れてじっとしておくということ。どっちにしても今自分がいる場の潮流に意識を向けるわけです。
それはどっちに流れていてどんな勢いなのか、もっと具体的には、その数日の気分や自分を取り巻く環境と、それらの変化、つまり、実際どうあるかというよりもその変化に注意するという感じでしょうか。数学的には微分というか、傾きですよね。
で、こういうことを考えるときは大概傾きがマイナスになっていってるわけですね。なんかよく分からないがいまいち気持ちよくないから、真面目が~とか不真面目が~と考え始めます。ってことは気持ちよさや充実度の絶対量の正負の問題ではなくマイナス方向に変化してるってことです。
もしくは全く変化がない傾きが0のパターンもあります。この場合は「現状維持は停滞」とか言われるやつです。
つまり、自分の内と外の変化を丁寧に見ていくことで流れというのが分かってくるんだと思います。これはどれだけ繊細に感じ取ることができるか、ということなので、知識や合理で対処する領域ではありません。
その意味で、身体感覚や自然という概念も本の中ではよく出てきます。
で、流れを考えようと思うと、自分一人の個だけの枠組みで考えるのは難しくなってきます。流れてるわけですから、人から人、内から外、外から内へ、出入り自由なものです。だから当然、「個」ではなく「場」まで拡張することになります。
じゃあその時に場に変化が起きていないとなれば、その場にある何か、つまり、麻雀なら点数になるんでしょうか、が動く必要があります。自分がその空間で重要視しているものです。
それを動かしていかないことには、傾きはずっと0です。厳密には0ではないかもしれませんが、僕たちの時間感覚ではほとんど止まってるようにしか思えないぐらいの小さな変化ってことになります。
これを解消するには、その物質や、もう少し抽象化すればエネルギーという言い方ができますが、それが誰かから誰かに移動すればいいわけです。それが流れの始まりです。
この時、大事なのは移動が起こることです。誰が手放すか、誰かが受け取るかは重要ではありません。
そこで「個」の単位でしか見ていないと、手放すことを「損した」と思ってしまうわけです。こうなると損したくないので誰も動かずますます澱んでいきます。
力学的には、慣性の法則があるので移動させる前が一番しんどいくて、静から動にいくには必ず力を作用させる必要があります。つまり、誰も動かなければどこまで行っても澱みです。これが楽しくない空間です。
でも「場」全体で見ることができれば、自分が手放すことで、その場で物の移動が起きてまた小さく流れ始めます。一度方向づいた流れはしばらく勝手に動いていくわけなので、澱みは解消され空気のめぐりがよくなっていきます。これがいい雰囲気ってことですよね。
つまり、頭で考えることをほどほどにして、「場」全体に注意を向け、目先の「個」の損得ではなく、流れが生まれるほう、またはプラスの流れがより大きくなる方向にエネルギーを投下する、それによって場が活性化し、いい循環が起こっていく、結果的にそれが「個」の気分や感情という内側、またそれを取り巻く環境という外側の両方を、そいつにとって嬉しい状態にしていくってことなのです。
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