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1,『私の財産告白』 本多静六

 今日は本多静六の「私の財産告白」について。この本で、毎月の収入から一定額をあらかじめ引いておくという考え方に初めて触れた。

 林学者だった本多静六は給料の四分の一を天引きして貯蓄し、残りのお金でやり過ごすという生活をしながら、未開発の山を買っていた。するとそこを開発したいということで国に高値で買われるという形で富を築いた。
amazonの履歴では2020年2月より前となっているので、読んだ当時は大学1年か2年。毎月使えるお金は、バイトの3万円ぐらいと確か奨学金が5万円ぐらいだったと思う。とにかくやりたいことが分からなく、何かちょっとでもいいからその糸口が欲しかったので、この月7,8万をどう使うか、というのが一つテーマでもあった。
この本の四分の一天引き貯金法の衝撃はすごかった覚えがある。先に天引きして貯蓄の分を確保しておけばいいのだ。確かお金に関する本もいくつか読んでいて、積み立て投資を始めるかどうかという頃だった。でも調べても調べても大学生は株式投資なんかしないで自己投資をしたほうがいいという意見しかなかった。うるさい、株も立派な自己投資である。

 子供の頃に株式トレーダーが複数のモニターを見ている姿に、大人になったらやりたいと思っていた。自分でやりたいと思ったことは勝手にいくらでも調べる。そしてそれと関係する形で日常のあらゆる情報を取り込んでいくことになる。株やお金や経済と結びついた形で新たな好奇心が生まれてくる。
これを読んで毎月一万二千円を投信に回すことにした。そして残りのお金は自由に使っていいというルールにした。
妻子のいた本多静六は毎月貯蓄に回し溜まった分で大きな投資をしたが、特に失うものもない大学生の僕は毎月天引きした分をそのまま株に変換していった。直後のコロナ禍の不安定な環境の中でちまちま増えていき、結局その天引き貯蓄が南米にでかける資金となった。

 多分この方式を採用したあたりから、僕ははっきりと自分の意思を信用しなくなっていった気がする。貯金というのはしようと思ってできるものではなかったのだ。
貯金に限らずスマホを触りすぎとか家にこもりすぎとか人と関わらなすぎとか、だからやりたいことが分からないとか、かといってどうすればいいか分からないとか、そういうものはすべて自分の意志に頼るものではない。
形を先に決めてしまって、あとは勝手にそこに適応するしかない環境を作る。スマホなら一定の時間開かない箱に入れておけばいいし、人と関わろうとすれば定期的にその場に行かないといけないようなイベントを必死で作ればいい。

 のちに誰かと関わることがすべての選択の最優先、というルールを作ったのでそうすれば勝手にその方向に流れていける。意思でコントロールするのではなく外堀を埋めるしかないと教えてくれる本だった。
似たところで、安田善次郎の『金の世の中: 安田善次郎の勤倹貯蓄論』や本多静六だと『人生計画の立て方』という本もある。人によってはこちらも面白いと思う。


私の財産告白 近代経済人文庫

【やりたいことが分からない読書録】はじめに