風姿花伝とは?
「風姿花伝」は能の大成者・世阿弥が約20年の歳月をかけて著した、至高の芸術論にして人生論。
(出典引用:アマゾン説明文)
風姿花伝は、能を大成させた世阿弥が書いた能の口伝書です。
この本自体は能の心得が中心になってます。ただ、「コンテンツづくり」という観点からもめっちゃ参考になるんですよね。
例えばブログ記事なんかもそうで。見てもらうまでが大変ですけど、そのあともめちゃくちゃ大事じゃないですか。
やっぱり最後まで読んでもらわないと話にならないので。
誰がどう評価するかわからんけど、だからこそちゃんと面白いコンテンツを作っていきたい。
で、じゃあ面白いコンテンツってなんやねん、となったときにこの風姿花伝から学べることが大いにあると。
花があるかがすべて
本全体を通して繰り返し強調されているのがこれ。
「花」があるか。
たとえ能が上手でも花がなければ人を引き付けられない。おもしろくない。
じゃあ花って何か。わかりやすく書かれてる部分を引用します。
そもそも花というもの、 万木千草四季折々に咲くものであって、その時を得た珍しさゆえに愛でられるのである。申楽においても人の心に珍しいと感じられる時、それがすなわち面白いという心なのだ。花、面白い、珍しい。これらは三つの同じ心である。いずれの 花でも散らずに残る花などあろうか。花は散り、また咲く時があるゆえ珍しいのだ。
世阿弥. 現代語訳 風姿花伝 (p.58). 株式会社PHP研究所. Kindle 版.
花=珍しい=面白い
一年中咲き続ける花はなく、ある時期に散り、またある時期に咲く。いわばその時にしか見られない珍しさが、そのまま面白さだと。
能では老人から鬼から色んなものを演じます。究めます。そうすると、そのすべてを客前で出し尽くすのには時間がかかるわけですね。
雑に言うと、二周目までが長い。必然的に一つ一つが珍しくなる。その「珍しい」がそのまま「面白い」ということ。
心が珍しいと感じるとき、それが面白いということで、それが花だということ。
その花が人をひきつけ、感動を生む。
つまり花とは特別にある何かではない。物数を尽くし工夫を得て、珍しさを心得ることが花である。
世阿弥. 現代語訳 風姿花伝 (p.59). 株式会社PHP研究所. Kindle 版.
人の心に思いも寄らない感動を呼び起こす手立て。これこそが花なのである。
世阿弥. 現代語訳 風姿花伝 (p.64). 株式会社PHP研究所. Kindle 版.
そしてこれはあらゆるコンテンツに当てはまります。やっぱり途中で飽きるのは、花がなかったということなんですね。
珍しさがない。どこかで見たことがある。他にも似たようなものがいくらでもある。
ここで僕はダウンタウンの漫才が思い浮かんだんですよね。
ダウンタウンの漫才と当時のスタンダート
これとか見たことあります?w
野球部を辞めようとする部員を、監督が止めるっていう設定の漫才コントなんですけど。
「俺が○○するから、お前△△やってくれや」
みたいな感じで始まる漫才ってこの20年ぐらいよくある形ですよね。
で、ダウンタウンが出てくるちょっと前までは、しゃべくり漫才が王道だったわけです。
ツービートとか紳助竜介とか。速いテンポとリズムでどんどん喋っていく感じ。
この下の動画。これとかビートたけしめっちゃ早口なんですよねw
ほんまに活舌的にギリぐらいの。多分今のyoutuberと同じぐらい。
こんな中でダウンタウンが出てきて、上にあるようなネタをするわけです。
途中でコントに入ったり、そもそも普段ぐらいのゆったり感で喋ったり。
これはもうすごい衝撃だったと思うんですよね。だって絶対当時の常識にはない形式だから。
「ダウンタウンの漫才を見て、やめようと思った」って島田紳助もいろんなところで言っていて。
ここでも言ってますね。
↓該当箇所の書き起こし風。
授業来たんですよ、NCSに。ほんでダウンタウンがおって。で、ダウンタウンのネタ見たときに、テンポが遅かったんよ、今みたいにね。
(中略)
それから2年たって梅田花月行ってん出番やったから。行ったらダウンタウンが出番やってん。ほんで見たら新人のダウンタウンが漫才しとってん。で舞台横で見ててん。客はおばちゃんやったから全然受けてへんかったけど、それを横で見た瞬間に「やめよう」と思ってん、ほんまにね。
やっぱりダウンタウンの漫才は「花」があったんだと思います。
その当時になかったものという珍しさが、人をひきつけ感動を生んだんだと思います。
じゃあ次はブログにおける花について、ちょっと考えてみます。
ブログにおける花は、書き手の物語
ブログにおける花は、書き手の物語にあります。
つまり、誰が、どうして、どんな思いで書いてるのか、ということです。
正直、もう中身だけで大きく差が出ることはないですよね。特に最近流行りのchatGPTを使えば似たような記事になります。
今の時点でも、内容が珍しくて他では見られない、みたいなことはほぼないじゃないですか。
じゃあどこに珍しさが出てくるのか。それが書き手の物語なんですね。
異なる経験をし、異なる背景を持つ人の、その切り口やモノの見方、着眼点が珍しい。
辞書やwikipediaには花はなくて。そこにはストーリーが存在しないから。
ちなみにこの記事では、”人が熱狂する面白いコンテンツとは何か”に関心を持った僕が、あなたに風姿花伝を読んで思ったことを共有したい、という思いで書いています。
全然伝わってなかったらあれですけどもw
時代性
2つ目は時代性ですね。社会性ともいえるかも。
ただ時の用に足りるもの、それを花と知るべきである。
世阿弥.現代語訳風姿花伝(p.67).株式会社PHP研究所.Kindle版.
本来良い・悪いなど何をもって定めるのか。ただ時により用に足るものを良い、足りないものを悪いとするだけのこと。この芸の品々というものも、その時代の人々所々によりその時の遍き好みによって、受け入れられるものが用に足りるため、花となるのだ。
世阿弥.現代語訳風姿花伝(p.66).株式会社PHP研究所.Kindle版.
いくらこっちがいいと思っていても、それを判断するのは相手側。で、それは時代ごとに移る変わるもの。
だから「正しい」というのはなくて、その時代にマッチするものが花というわけです。
正直これはめっちゃ意外。今の能の伝統芸能という立ち位置からすると、表現する側が主体なのかなというイメージでした。
もちろんそれも100%違うわけではないとは思います。
ただ、これが書かれた時点で、見る側に合わせる意識があったというのがびっくりしました。
あったというよりむしろ、はっきり強調されていたので。
独りよがりになってはいけない
当時の能は、客前でバトルみたいに行われていたらしい。踊りの美しさなどを競うイメージで。
だから見る人にちゃんと評価されないといけない。そこからこの感覚は来てるっぽい。
同じ芸でも、見る人に合わせて微調整をするのは、落語家や芸人もですよね。劇場では、その日の客層を見てネタやテンポを変えたりとか。
僕は芸人の銀シャリのネタをyoutubeで見倒してた時期があるんですけど、お年寄りの前ではめちゃくちゃゆっくり喋ってましたw
で、これは僕たちがコンテンツを作るうえでも、常に頭に入れておくべきことだと。
まず「誰に」から考える。
ブログ記事が書けない?もともとターゲットにした過去の自分を思い返そう
何を発信するにしても、常にそれを受け取る人が存在します。そこを無視していては、単なる独り言になってしまいます。
これはぜひとも意識しておきたいところですよね。
対立概念
一、能ではあらゆる方面に用心すべきこと。例えば強く猛々しい芸をするときには、柔らかな心を忘れてはならない。これはいかに激しく演じても、荒くならない手立てである。
世阿弥.現代語訳風姿花伝(p.62).株式会社PHP研究所.Kindle版.
最後は、対立概念をまとめて取り込むということ。これも能に限らず、コンテンツに乗っかるエネルギーを高める秘訣だと思います。
相反する概念をアウフヘーベンして、その両方を含んだ概念に昇華させる。
それによって1つ階層が上がるというか、レイヤーが変わるというか、抽象度が高まるというか。
それが珍しさになり花になるんじゃないかと。
老子の思想にも、これと似た話が出てきますよね。
相反する概念は絶対的ではなく、互いに相対的。美しいがあるから醜いがあり、高いがあるから低いがある。
2つを切り離すのではなく、つながっているものとして捉える。数直線の対局ではなく、両端の繋がった円形のイメージですね。
陰陽の印なんかはまさにそう。片方の概念の終わりにはもう片方の概念の始まりがある。そんな感じ。
物理の世界でもそうですよね。
粒子の波動性から生まれた量子力学
物理の世界では、それまで粒子と思われていたものに波動性を見いだすことで、新たな時代へと突入していきました。
それが量子力学の始まりですね。
逆に波としてとらえていた光にも粒子性があると考えないと、つじつまが合わない現象もあるわけです。
この二面性に関しては二重スリットの実験なんかが有名ですよね。
電子を1個ずつ壁に打っていったのに、波の干渉によって生まれる縞模様ができてしまうというやつ。
粒子なのか波なのかどっちやねんていうやつ。
こんなんとか中学生ぐらいの時にみて衝撃でしたけどねw
意味わからんすぎやろって。
こういうのって人間の直感とあってないから気持ち悪いんですよね。
でもそんな粒子性と波動性を統合して説明する枠組みとして、量子力学が発展していくわけです。
つまり一見相容れない2つのものを、ある1つの枠組みでとらえられたときに、爆発的なエネルギーが生まれるということなんですね。
コンテンツという文脈でも同じ。対極にある概念を、抽象度を高めていかに1つにまとめていくか。
眉村ちあきと花
数年前から個人的にハマっている、眉村ちあきという歌手がいます。
”弾き語りトラックメイカーアイドル”という謎の肩書なんですがw、この人は対立概念を合わせるのがめっちゃ上手だと思っていて。
ここまでの意味での花がすごくある。この場合は人間味ともいえるかも。
一曲の中で陰と陽が両方あったり、悲しい内容をアップテンポに歌ったり。そのふり幅に揺さぶられるわけです。
で、その感性はライブでもばちこり発揮されていて。ライブの一発目にいきなりオペラの魔笛をかましてみたりします。
そこの見せ方というか気のひきつけ方が、めちゃめちゃ頭いいやんっていつも思いますw。
↓オペラのやつ
この後普通にライブってどんな構成やねんって感じですけども。
まとめ
ここまで風姿花伝から、面白いコンテンツについて考えてきました。
最後に簡単にまとめると、面白いコンテンツを作るうえで意識したいことは、
- 花
- 時代性
- 対立概念
の3つ。
そして「花=珍しい=面白い」
ここだけ抑えていればいいはず。何かコンテンツを作るときの参考になれば幸いです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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